 
                        Global Legal Update Vol. 120 | 2025年10月号
ジョーンズ・デイでは、世界各国に広がる40のオフィスが、現地の法令や判例等の最新情報をAlert/Commentary等としてお伝えしています。その中から日系企業に特に関心が高いと思われるものを以下でご紹介します。なお、英文部分の各リンクからAlert/Commentary等の原文をご覧頂けます。
サイバーセキュリティ・プライバシー・データ保護
カリフォルニア州法案、AIモデルのトレーニングに使用されるデータの開示を義務付け
California Bill Will Require Disclosures About Data Used in Training AI Models
2026年1月1日、カリフォルニア州議会法案2013号「生成AIトレーニングデータ透明性法」(「AB 2013」)が施行され、生成AIの開発者は、自身のウェブサイト上でAIモデルのトレーニングに使用するデータに関する情報を公開することが義務付けられます。
AB 2013の目的
議会スタッフによる分析によると、AB 2013はAIシステムおよびサービスの透明性を高め、消費者が競合するシステムを比較し、そのシステムに対する信頼度を評価できるようにすることを目的としています。
AB 2013の適用範囲
開示要件は、2022年1月1日以降にリリースされ、カリフォルニア州民が無料または有料で利用可能な(AIシステム全般ではなく)生成AIシステムに適用されます。これには、生成AIシステムを設計、コーディング、製作、または大幅に改変する開発者が含まれます。AB 2013は、セキュリティインシデントを検出するシステムなど、セキュリティと整合性を確保することのみを目的とするGenAIシステムなど、いくつかの限定された例外を設けています。それ以外の場合、AB 2013はユタ州の上院法案226号、コロラド州のAI法、およびEUのAI法とは異なり、すべてのGenAIシステムに適用され、高リスクシステムに限定されません。
要件の概要
生成AI開発者は、生成AIシステムの開発に使用されたデータセットの概要を開示することが求められます。概要と言いつつも、AB 2013は12の必須開示項目を列挙しており、そのうちのいくつかはさらに詳細に示されています。例えば、以下の事項が含まれます。
- データの出典と所有者
- データポイントの数
- データの種類
- データセットに著作権、商標、または特許で保護されたデータが含まれているかどうか
- データセットに個人情報が含まれているかどうか
- データが収集された期間、およびデータ収集が継続中かどうか
- データセットが開発に初めて使用された日付
開示の形式
該当する開発者は、この開示情報を自身のウェブサイトに掲載する必要があります。AB 2013は開示の形式を規定していないため、議会のプライバシーおよび消費者保護委員会は、開示が高度に技術的な形式で作成された場合、透明性の目標が達成されない可能性があると懸念しています。
次のステップ
AB 2013の対象となる開発者は、2026年1月1日までに自身のウェブサイトで公開するための開示情報を準備する必要があります。これには、第三者から提供されたデータセットを含む、開発者のトレーニングデータセットのレビューを行うことが含まれます。開発者は、開示情報の中で誤って企業秘密やその他の競争上または専有情報を明らかにしないように注意する必要があります。
税務
2025年7月4日、米国にてOne Big Beautiful Bill Actと呼ばれる法律(以下「OBBBA」といいます。)が成立しました。OBBBAは、税制改正のみならず、様々な連邦プログラムに係る支出額の変更、政府債務の上限引き上げ、連邦政府における様々な機関及びプログラムに係る制度改正など、多岐にわたる事項を規定する法律です。その法案には当初の下院版と後に提出された上院版があり、かつ法案に含まれていた、いわゆる報復課税条項(Section 899)がG7声明を受けて削除されるなど、短期間に幾多の変遷を経て成立された法律であり、その過程で様々な報道がなされていたため、最終的なルールの内容がわかりにくくなっている面があります。本コメンタリーは、最終的な法律に規定された税制改正の内容を整理するものですが、すべての事項を網羅するのではなく、多くの日本企業にとって重要と思われる事項に限定して解説を行うものです。
米国内投資の奨励等に向けた措置
- 2025年1月19日以後に取得され、事業の用に供された一定の適格資産(償却期間20年以内の資産など)について、従来時限的に認められていた加速度償却を恒久的な制度にするとともに、100%の即時償却を認めるものです。また、一定の適格生産設備を構成する商業不動産について、2030年末までに事業の用に供するなど複数の要件を満たすことで、選択により100%の即時償却を認める制度が新設されました。
- 米国内における研究開発費用について、支出年度における損金算入を認めるものです。納税者の選択により、資本化して60か月間にわたって償却する処理も認められます。かかる改正は、原則として、2025年1月1日以後に開始される事業年度において支出される研究開発費用について適用されます。ただし、一定の中小法人については、2022年1月1日以後に開始される事業年度に遡っての損金算入が認められています。
- 事業利子の損金算入制限規定(いわゆるアーニング・ストリッピング・ルール)は、損金算入可能な事業上の支払利子の金額の上限を、原則として「調整後課税所得」の30%に事業上の受取利子の金額及びフロアプラン金融利子の金額を加算した金額とするものです。「調整後課税所得」として、2021年まではEBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)、2022年以降はEBIT(利払前・税引前利益)が用いられていましたが、これを再びEBITDAに戻して損金算入枠の拡大を図るものです。かかる改正は、原則として、2025年1月1日以後に開始される事業年度から適用されます。
また、利子の資産計上により損金算入制限規定を回避しようとする行為は、OBBBAによって封じられることとなりました。
BEAT(税源浸食濫用防止税)に係る改正
OBBBAには、国際課税に関するものとして、外国税額控除やCFC税制に関する改正が含まれていますが、多くの日本企業はBEAT(税源浸食濫用防止税)に関心があると思われるため、以下はBEATの改正に限定して解説します。
BEATは、第一次トランプ政権時の2017年に成立した減税・雇用法(Tax Cuts and Jobs Act)によって導入されたもので、米国法人と非米国関連法人間の取引による米国の税源浸食を防止するための規定です。BEATの適用対象となる法人は、過去三事業年度の平均年間総収入金額が5億ドル以上で、税源浸食支払の割合が原則として3%(一定の金融グループは2%)以上の法人です。税源浸食と見做される支払いには、非米国関連法人に対する損金算入可能な支払いのほか、償却資産の購入代金の支払いなども含まれます(COGSは対象外)。BEATの適用税率は10%で、2026年以後は12.5%に上がることが予定されていました。BEATは一種のミニマム課税であり、税源浸食支払によって「通常の税負担」を下回る結果となる場合にのみ、その限度で課税対象となるところ、「通常の税負担」の計算上、①低所得者用住宅税額控除、②再生可能エネルギー生産税額控除及び③エネルギー控除に係る投資税額控除の三つについては、原則としてそれらの合計金額の80%までは控除する必要がないものとされ、優遇的扱いを受けています。
BEATについては、議会の審議過程において、様々な改正が検討されていました。例えば報復課税条項(Section 899)では、UTPRなど「不公平な外国税」導入国に親会社を有する米国子会社等を念頭に、過去三事業年度の平均年間総収入金額が5億ドル以上という要件の撤廃や税源浸食支払の割合の引き下げ、低所得者用住宅税額控除等に係る上記優遇的扱いの廃止などが含まれていました。他方、法案段階では、税源浸食支払の相手国において高い税負担に服している場合には税源浸食支払とみなさない(高税率免除)という、納税者に有利な規定も含まれていました。
ところが、2025年6月28日のG7声明を受けて、報復課税条項(Section 899)は法案から削除され、同時に納税者に有利な高税率免除規定も削除されることとなりました。これにより、前述したBEAT制度の概要(過去三事業年度の平均年間総収入金額が5億ドル以上という要件及び税源浸食支払の割合が原則として3%であるという要件、さらに低所得者用住宅税額控除などに関する優遇的扱いを含む。)は、BEATの適用税率の点を除いていずれも維持されることとなり、最終的に実現した改正点としては、2026年以後のBEATの適用税率を10.5%に引き下げる変更のみとなりました。
グリーン・ニューディール施策の段階的廃止
第二次トランプ政権の反脱炭素政策を受け、前政権時に成立した環境・エネルギー分野での様々な税額控除規定が段階的に廃止されることとなりました。廃止の対象となる主要な税額控除規定は以下の通りです。詳しくは、当事務所のWhite Paper(英文)をご参照ください。
- クリーン車税額控除(clean vehicle tax credit, qualified commercial clean vehicle tax credit)の廃止
- 代替燃料補給資産税額控除(alternative fuel refueling property tax credit)の廃止
- 省エネ住宅修繕税額控除(energy efficient home improvement tax credit)の廃止
- 住居クリーンエネルギー税額控除(residential clean energy tax credit)の廃止
- 省エネ商業ビル税額控除(energy efficient commercial buildings tax deduction)の廃止
- 新省エネ住宅税額控除(new energy efficient home tax credit)の廃止
- 2025年1月1日以後に建設が開始された一定の太陽光発電施設及び風力発電施設に係る投資の5年償却(special five-year cost recovery period for investments in certain solar and wind property)の廃止
- 特定外国法人等によるゼロエミッション原子力発電税額控除(zero-emission nuclear power production tax credit)の禁止
- 2028年におけるクリーン水素生産税額控除(clean hydrogen production tax credit)の廃止
- 2028年以降に事業の用に供される太陽光発電施設及び風力発電施設等に関するクリーン発電税額控除(clean electricity production tax credit)の廃止、並びに特定外国法人等に関する規制
- 2028年以降に事業の用に供される太陽光発電施設及び風力発電施設(蓄電技術を除く)等に関するクリーンエネルギー投資税額控除(clean electricity investment tax credit)の廃止、並びに特定外国法人等に関する規制
- 2028年以降に生産及び販売される風力エネルギー部品に係る先端製造生産控除(advanced manufacturing production credit for wind energy components)の廃止、2030年以降に生産される原料炭に係る先端製造生産控除の廃止、その他の先端製造生産控除の段階的廃止、並びに特定外国法人等に関する規制
なお、上記「特定外国法人等」は、いわゆるFEOC(Foreign Entity of Concern:懸念対象外国法人)規制の対象となる法人等を意味します。日本法人は直接的には該当しないものの、懸念対象として指定された国の法人を通じて投資する場合や、設備の生産等に関して特定外国法人等から実質的支援を受けた場合には規制の対象となる可能性があります。更に、2027年7月4日より後に開始する課税年度において特定外国法人等に対する一定の支払が行われた場合においても、規制の対象となる可能性があります。
その他、2025年9月は以下の情報をAlert/Commentary 等としてお伝えしています。
独占禁止法・競争法
伝統的M&Aへの回帰か?トランプ政権下の米国連邦取引委員会(FTC)による初の合併阻止からの示唆
A Return to Traditional M&A? Insights from First Merger Challenge of Trump Administration’s Federal Trade Commission
事業再編・倒産
フロリダ州の連邦倒産裁判所:手続費用も全額弁済できない債務者に関して提案されたDIPファイナンスと売却の枠組は、Jevic判決で示された絶対優先原則から逸脱する分配の禁止に違反しないと判断
Florida Bankruptcy Court: Proposed DIP Financing and Sale Framework for Administratively Insolvent Debtors Did Not Violate Jevic's Prohibition of Priority-Deviating Distributions
新たな境地を切り開く:第二巡回区連邦控訴裁判所、連邦倒産法の否認権行使に係る証券取引(Securities Transactions)のセーフハーバーがチャプター15の事件における外国のコモンローに基づく請求を遮断すると判断
Breaking New Ground: Second Circuit Rules that Bankruptcy Code's Securities Transactions Safe Harbor Bars Foreign Common-Law Claims in Chapter 15 Case
サイバーセキュリティ・プライバシー・データ保護
EU一般裁判所、EU・米国データ・プライバシー・フレームワークを支持
EU General Court Upholds EU-U.S. Data Privacy Framework
欧州連合司法裁判所(CJEU)、欧州データ保護監察機関(EDPS)対単一破綻処理委員会(SRB)事件において「個人データ」の範囲を明確化
CJEU Clarifies Scope of Personal Data in EDPS v SRB Decision
エネルギー転換およびインフラストラクチャー
未来を動かす力:データセンター開発の新時代をどう乗り切るか
Powering the Future: Navigating the New Era of Data Centre Development
フィナンシャル・マーケット
米国商品先物取引委員会(CFTC)、米国外の暗号資産取引所が米国内の参加者にアクセスするための外国取引所(Foreign Board of Trade/FBOT)としての登録の枠組みを明確化する勧告(Advisory)を公表
CFTC Issues Advisory to Clarify FBOT Registration Framework for Non-U.S. Crypto Exchanges to Access U.S.-based Participants
EUにおける証券化枠組みの改革(第8部):シンプルで透明性があり標準化された証券化の要件(STS要件)に係る一定の変更
Reform of the EU Securitisation Framework—Part 8: Changes to Certain STS Requirements
EUにおける証券化枠組みの改革(第9部):自己資本要件の変更
Reform of the EU Securitisation Framework—Part 9: Changes to Capital Requirements
EUにおける証券化枠組みの改革(第10部):流動性カバレッジ比率(LCR)規制の変更
Reform of the EU Securitisation Framework—Part 10: Changes to the Liquidity Coverage Ratio (LCR) Regulation
政府規制
EU地政学的リスク・アップデート—政策・規制の主要動向 第122号
EU Geopolitical Risk Update - Key Policy & Regulatory Developments No. 122
ヘルスケア・ライフサイエンス
フェムテックの未来:女性の健康におけるイノベーションと投資
The Future is FemTech: Innovation and Investment in Women’s Health
トランプ政権によるヘルスケア業界向け最新情報
Trump Administration Updates for the Health Industry
医薬品関税に備える:業界がサプライチェーン・リスクを軽減するためにできること
Preparing for Pharmaceutical Tariffs: What Industry Can Do To Mitigate Supply Chain Risks
米国食品医薬品局(FDA)による新薬承認申請(NDA)または生物製剤承認申請(BLA)の審査遅延に異議を唱える訴訟の提起
Filing Litigation to Challenge FDA Delays in NDA or BLA Review
イノベーティブ・インサイツ:ライフサイエンスの最新法律情報|2025年第3四半期
Innovative Insights: Legal Updates in Life Sciences | Third Quarter 2025
知的財産
日本の裁判所、特許侵害訴訟の損害賠償額で過去最高記録を更新
Japanese Court Shatters Previous Record for Damages Award in a Patent Infringement Case
商標権の執行を強化:欧州連合司法裁判所(CJEU)、欧州連合(EU)の黙認規定を超える各国の不活動抗弁を排除
Trademark Enforcement Strengthened: CJEU Bars National Inactivity Defenses Beyond EU Acquiescence Rules
労働・人事
オーストラリアの大企業に男女平等目標を導入
Gender Equality Targets Introduced for Large Australian Businesses
プライベート・エクイティ
2023年英国経済犯罪及び企業透明性法:プライベート・エクイティ・スポンサーが注目すべき理由
The UK Economic Crime and Corporate Transparency Act 2023: Why Private Equity Sponsors Should Be Paying Attention
証券訴訟・証券法規制執行
米国証券取引委員会(SEC)が「新時代」を宣言:新たなアジェンダと新たなリーダーシップ
SEC Says It's a "New Day": A New Agenda and New Leadership
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