
日本企業として把握すべきOBBBAの概要
要約
状況:2025年7月4日、米国にてOne Big Beautiful Bill Act(OBBBA)と呼ばれる予算調整措置法が成立しました。
結果:OBBBAには様々な減税措置が規定されており、そのなかには加速度償却の恒久化、事業利子の損金算入上限額の引き上げ、BEAT税率の引き下げが含まれます。
今後の対応:日本企業としては、関連する問題には適切に対応しつつ、これらの減税措置を有効活用して米国投資を行うことを検討すべきと考えます。
2025年7月4日、米国にてOne Big Beautiful Bill Actと呼ばれる法律(以下「OBBBA」といいます。)が成立しました。OBBBAは、税制改正のみならず、様々な連邦プログラムに係る支出額の変更、政府債務の上限引き上げ、連邦政府における様々な機関及びプログラムに係る制度改正など、多岐にわたる事項を規定する法律です。その法案には当初の下院版と後に提出された上院版があり、かつ法案に含まれていた、いわゆる報復課税条項(Section 899)がG7声明を受けて削除されるなど、短期間に幾多の変遷を経て成立された法律であり、その過程で様々な報道がなされていたため、最終的なルールの内容がわかりにくくなっている面があります。本コメンタリーは、最終的な法律に規定された税制改正の内容を整理するものですが、すべての事項を網羅するのではなく、多くの日本企業にとって重要と思われる事項に限定して解説を行うものです。
米国内投資の奨励等に向けた措置
- 2025年1月19日以後に取得され、事業の用に供された一定の適格資産(償却期間20年以内の資産など)について、従来時限的に認められていた加速度償却を恒久的な制度にするとともに、100%の即時償却を認めるものです。また、一定の適格生産設備を構成する商業不動産について、2030年末までに事業の用に供するなど複数の要件を満たすことで、選択により100%の即時償却を認める制度が新設されました。
- 米国内における研究開発費用について、支出年度における損金算入を認めるものです。納税者の選択により、資本化して60か月間にわたって償却する処理も認められます。かかる改正は、原則として、2025年1月1日以後に開始される事業年度において支出される研究開発費用について適用されます。ただし、一定の中小法人については、2022年1月1日以後に開始される事業年度に遡っての損金算入が認められています。
- 事業利子の損金算入制限規定(いわゆるアーニング・ストリッピング・ルール)は、損金算入可能な事業上の支払利子の金額の上限を、原則として「調整後課税所得」の30%に事業上の受取利子の金額及びフロアプラン金融利子の金額を加算した金額とするものです。「調整後課税所得」として、2021年まではEBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)、2022年以降はEBIT(利払前・税引前利益)が用いられていましたが、これを再びEBITDAに戻して損金算入枠の拡大を図るものです。かかる改正は、原則として、2025年1月1日以後に開始される事業年度から適用されます。
また、利子の資産計上により損金算入制限規定を回避しようとする行為は、OBBBAによって封じられることとなりました。
BEAT(税源浸食濫用防止税)に係る改正
OBBBAには、国際課税に関するものとして、外国税額控除やCFC税制に関する改正が含まれていますが、多く日本企業はBEAT(税源浸食濫用防止税)に関心があると思われるため、以下はBEATの改正に限定して解説します。
BEATは、第一次トランプ政権時の2017年に成立した減税・雇用法(Tax Cuts and Jobs Act)によって導入されたもので、米国法人と非米国関連法人間の取引による米国の税源浸食を防止するための規定です。BEATの適用対象となる法人は、過去三事業年度の平均年間総収入金額が5億ドル以上で、税源浸食支払の割合が原則として3%(一定の金融グループは2%)以上の法人です。税源浸食と見做される支払いには、非米国関連法人に対する損金算入可能な支払いのほか、償却資産の購入代金の支払いなども含まれます(COGSは対象外)。BEATの適用税率は10%で、2026年以後は12.5%に上がることが予定されていました。BEATは一種のミニマム課税であり、税源浸食支払によって「通常の税負担」を下回る結果となる場合にのみ、その限度で課税対象となるところ、「通常の税負担」の計算上、①低所得者用住宅税額控除、②再生可能エネルギー生産税額控除及び③エネルギー控除に係る投資税額控除の三つについては、原則としてそれらの合計金額の80%までは控除する必要がないものとされ、優遇的扱いを受けています。
BEATについては、議会の審議過程において、様々な改正が検討されていました。例えば報復課税条項(Section 899)では、UTPRなど「不公平な外国税」導入国に親会社を有する米国子会社等を念頭に、過去三事業年度の平均年間総収入金額が5億ドル以上という要件の撤廃や税源浸食支払の割合の引き下げ、低所得者用住宅税額控除等に係る上記優遇的扱いの廃止などが含まれていました。他方、法案段階では、税源浸食支払の相手国において高い税負担に服している場合には税源浸食支払とみなさない(高税率免除)という、納税者に有利な規定も含まれていました。
ところが、2025年6月28日のG7声明を受けて、報復課税条項(Section 899)は法案から削除され、同時に納税者に有利な高税率免除規定も削除されることとなりました。これにより、前述したBEAT制度の概要(過去三事業年度の平均年間総収入金額が5億ドル以上という要件及び税源浸食支払の割合が原則として3%であるという要件、さらに低所得者用住宅税額控除などに関する優遇的扱いを含む。)は、BEATの適用税率の点を除いていずれも維持されることとなり、最終的に実現した改正点としては、2026年以後のBEATの適用税率を10.5%に引き下げる変更のみとなりました。
グリーン・ニューディール施策の段階的廃止
第二次トランプ政権の反脱炭素政策を受け、前政権時に成立した環境・エネルギー分野での様々な税額控除規定が段階的に廃止されることとなりました。廃止の対象となる主要な税額控除規定は以下の通りです。詳しくは、当事務所のWhite Paper(英文)をご参照ください。
- クリーン車税額控除(clean vehicle tax credit, qualified commercial clean vehicle tax credit)の廃止
- 代替燃料補給資産税額控除(alternative fuel refueling property tax credit)の廃止
- 省エネ住宅修繕税額控除(energy efficient home improvement tax credit)の廃止
- 住居クリーンエネルギー税額控除(residential clean energy tax credit)の廃止
- 省エネ商業ビル税額控除(energy efficient commercial buildings tax deduction)の廃止
- 新省エネ住宅税額控除(new energy efficient home tax credit)の廃止
- 2025年1月1日以後に建設が開始された一定の太陽光発電施設及び風力発電施設に係る投資の5年償却(special five-year cost recovery period for investments in certain solar and wind property)の廃止
- 特定外国法人等によるゼロエミッション原子力発電税額控除(zero-emission nuclear power production tax credit)の禁止
- 2028年におけるクリーン水素生産税額控除(clean hydrogen production tax credit)の廃止
- 2028年以降に事業の用に供される太陽光発電施設及び風力発電施設等に関するクリーン発電税額控除(clean electricity production tax credit)の廃止、並びに特定外国法人等に関する規制
- 2028年以降に事業の用に供される太陽光発電施設及び風力発電施設(蓄電技術を除く)等に関するクリーンエネルギー投資税額控除(clean electricity investment tax credit)の廃止、並びに特定外国法人等に関する規制
- 2028年以降に生産及び販売される風力エネルギー部品に係る先端製造生産控除(advanced manufacturing production credit for wind energy components)の廃止、2030年以降に生産される原料炭に係る先端製造生産控除の廃止、その他の先端製造生産控除の段階的廃止、並びに特定外国法人等に関する規制
なお、上記「特定外国法人等」は、いわゆるFEOC(Foreign Entity of Concern:懸念対象外国法人)規制の対象となる法人等を意味します。日本法人は直接的には該当しないものの、懸念対象として指定された国の法人を通じて投資する場合や、設備の生産等に関して特定外国法人等から実質的支援を受けた場合には規制の対象となる可能性があります。更に、2027年7月4日より後に開始する課税年度において特定外国法人等に対する一定の支払が行われた場合においても、規制の対象となる可能性があります。
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