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Global Legal Update Vol. 67 | 2021年5月号

ジョーンズ・デイでは、世界各国に広がる40以上のオフィスが、現地の法令や判例等の最新情報をAlert/Commentary等としてお伝えしています。その中から日系企業に特に関心が高いと思われるものを以下でご紹介します。なお、英文部分の各リンクからAlert/Commentary等の原文をご覧頂けます。

独占禁止法・競争法

欧州委員会、企業結合審査を届出対象外の取引に拡大
European Commission Expands Antitrust Reviews to Non-Reportable Transactions

欧州委員会(「EC」)によると、当事者の双方又は一方(通常は小規模で高価値の買収対象会社)がEC又は加盟国の届出基準を満たさなかったことを理由として、企業結合の届出を免れた競争法上重要な取引の数が増加してきました。届出基準は、通常、国内売上高に基づいています。

この懸念事項に対応するため、ECは、 EU加盟国の競争当局がECに対して企業結合審査を要請する「upward referral mechanism」の対象となる取引の類型を拡張する新たなガイドライン(「ECガイドライン」)を発出しました。ECガイドラインは、直ちに効力を発生しており、加盟国の競争当局に対し、対象企業の買収が将来において競争法上重要なものとなる可能性がある場合には、 EC又は加盟国における売上がない又は僅少な企業に関する買収をECの企業結合審査の対象とするよう要請することを推奨しています。

EC及び加盟国競争当局の届出基準とは異なり、新たな要請ルールは主観的なものです。この結果、ECが特定の取引をクロージング後においても審査するか否かを予見することがより困難になる可能性があります。要請ルールは、すべての産業に同様に適用されますが、ECは、小規模な企業の買収が頻繁に行われ、また、ECが近年関心をよせているテクノロジー、バイオテクノロジー及び医薬品の各産業分野において最大の影響があると警告しています。

サイバーセキュリティ・プライバシー・データ保護

人工知能に対する規制: 欧州委員会による規制案の公表
Regulating Artificial Intelligence: European Commission Launches Proposals

2021年4月21日、欧州委員会は、欧州連合(「EU」)内においてどのようにAIシステム及びその成果物を導入し、利用するかについて規定する、「人工知能に対する統一ルールを定める規則」(「AI規則」)案を公表しました。AI規則と共に、AIシステムの機械への安全な組み込みに焦点をあてる新たな「機械製品に対する規則」案、さらに、信頼性のあるAIに関するEUの主導的立場を強化することを目的とする、加盟国において必要とされる政策変更及び投資についての大要をまとめた新たな「AIに関する協調的計画」も公表されました。

AI規則案は、産業データの入手可能性及び利用に焦点をあてた、EUにおけるより広範な政策課題の一部となっています。様々なステークホルダーからの意見を反映し、この規則案は、関連する利益とリスクのバランスをとったAIシステムのためのEU市場を確保すべく、AIシステムの開発及び利用に関するヨーロッパモデルを確立することを目標としています。とりわけ、AI規則案は、AIシステムを広範に定義し、公的機関による社会的信用評価といったAIシステムの一定の使用方法を特に禁止し、EUに「ハイリスク」AIを導入する管理体制を予定しています。

欧州議会及び欧州理事会において承認された場合(2年から3年かかる可能性があります)、AI規則案は、いかにしてAIシステム(またはAIを組み込んだ製品)がEU において商業化され使用されるべきかという条件を規定することになり、欧州一般データ保護規則(「GDPR」)とともに世界的な影響をもたらす可能性があります。AIシステムを調査、開発又は利用する組織は、承認された場合には自社の活動に適用されるAI 規則案の進展を、GDPRやデジタルサービス法案、デジタル市場法案といった主要な規制とともに、注視する必要があるといえます。

エネルギー

豪政府、豪州の沖合石油ガス規制の大幅改正を予定
Australian Government Foreshadows Significant Reform to Australia's Offshore Oil & Gas Regulation

今月、豪政府は、沖合石油・地球温暖化ガス貯留法(「OPGGSA」)を改正する法案を公開しました。改正案は、沖合石油ガス産業が成熟したことに伴い、豪州における規制の焦点の調整を反映することを目的としています。改正は主に次の2つの分野に及びます。

  • 政府承認の必要性の追加
  • トレーリング責任条項の拡大

支配権の変更

現在、政府承認は、石油権限のあらゆる委譲に求められています。豪州政府は、政府承認が必要な取引の種類を増やすことで、産業に携わる者に対する更なる精査を行おうとしています。

改正案では、権限保持者の権益の20%以上を取得する取引、または権限保持者の保持している権益を20%以下に減らす取引は、政府承認が必要となります。ジョイントベンチャーにおいては、ある法人が一人の権限保持者の20%以上の持分を取得する場合には、その法人の権益が全体の権益の20%以下であっても、承認が必要となります。

提案された取引を精査する際に、政府は、権限保持者の将来的な技術的及び財政的能力や、取得予定者の過去のコンプライアンスやガバナンスなど、多岐にわたり調査します。

トレーリング責任

豪州石油ガス資産の閉鎖が、近年注目されています。閉鎖に伴うデフォルトのリスクを解消するため、政府は、トレーリング責任の大幅な拡大を提案しています。改正案では、過去の権限保持者やその関連法人も閉鎖又は環境改善の義務を負い、規制当局は現在の権限保持者だけでなく、下記の者を含む様々な者に対し命令を行う広範な権限を与えられます。

  • 過去の権限保持者
  • 現在及び以前の権限保持者の関連法人
  • プロジェクトから多大な金銭的利益を受けていた(若しくは受ける予定の)者、または法人によるOPGGSAの遵守に影響を与える立場にある(若しくは与えた)者

現段階では、トレーリング責任条項は、2021年1月1日以前に失効したもの以外の許可、リース及びライセンスに影響します。

次のステップ

法案に対しては、2021年4月23日までパブリックコメントを提出することができます。法案が連邦議会に正式に提出されるまで、上記の改正内容を注視することが必要です。

2021年メキシコ電力改革:外国投資家が自らの権利を守るために知っておくべきこと
2021 Mexican Electricity Reform: What Foreign Investors in Mexico Must Know to Protect Their Rights

2021年3月10日、電力産業法の改正(「電力改革」)が施行されました。

電力改革には以下の内容が含まれています。(i)グリッドディスパッチングに関するルールを、民間電力発電所や再生可能エネルギー業者に代わって、電力公社(「CFE」)が所有する発電所に有利となるように変更すること。(ii)電力の発電及び商業化における自由競争やオープンアクセスの原理を制限し、発電許可をメキシコ政府の計画指針に従わせること。(iii)電力オークションで電力を調達するというCFEの義務を廃止すること。(iv)CFEの古い発電所が取得できなかったクリーンエネルギー証明書を取得できるようにすること。これによって、民間のクリーンエネルギー発電所に付与された証明書の価値は下がり、グリーンパワーへの投資意欲が減退する。(v)エネルギー規制委員会に「法律に違反して取得された」自主供給発電許可を取り消すよう指示をすること。(vi)CFEと独立発電事業者間で締結された電力購入契約を見直し、再交渉もしくは取り消しを行うか否かを判断するよう命令すること。

電力改革の重要性は?

電力改革は、2013年エネルギー改革を解体しようとするロペス・オブラドール政権の試みといえます。電力市場のルールを国営CFEに有利となるように変更し、規制上の不確実性を高め、エネルギー分野における民間投資に打撃を与えるものです。

メキシコにおける外国投資家が知るべきこと

電力改革のいくつかの条項は、健全な環境への権利、持続可能な発展の権利など、メキシコ憲法に反し、自由競争を阻むものであり、メキシコの裁判所で争われる可能性があります。また、電力改革の内容は、40を超える二国間投資協定、自由貿易協定、投資条項を含む国際条約によってメキシコから外国投資家へ与えられた権利を毀損する可能性があります。よって、電力改革に対処する法的措置として、メキシコの電力産業において許可を受けた外国投資家は、国内及び国際的な2つのアプローチを行うことができます。特定の投資家がどのように影響を受け、電力改革がどの保護措置に違反しているかは、ケースバイケースで分析する必要があります。メキシコに対する訴訟を考えている場合、条約の範囲についても詳しく検証しなければなりません。

メキシコ炭化水素法:外国投資家が自らの権利を守るために知っておくべきこと
Mexico's Hydrocarbons Law: What Foreign Investors in Mexico Must Know to Protect Their Rights

2021年3月26日、メキシコ大統領ロペス・オブラドールは、炭化水素法の改正法案(「本法案」)を国会へ提出しました。

本法案には以下の内容が含まれています。(i)炭化水素の輸入、販売、流通の許可はメキシコ政府によって定められた貯蔵能力を条件とすること。(ii)許可の停止及び取り消しは、国家安全保障を考慮して行うことができること。(iii)停止された許可にかかわるプロジェクトを継続できるのは国有企業Pemexのみであること。(iv)既存の輸入、販売、流通の許可は見直され、貯蔵能力が十分でなければ取り消されること。(v)メキシコ政府は許可を見直し、取り消すことのできる大きな裁量を有すること。

本法案の重要性は?

本法案は、2013年エネルギー改革を解体しようとするロペス・オブラドール政権の新たな試みといえます。炭化水素市場のルールを国営企業Pemexに有利となるように変更し、規制上の不確実性を高め、石油ガス分野における民間投資に打撃を与えるものです。本法案に沿って可決されれば、炭化水素分野への国内外からの投資を呼び込もうとする現在の規制を大きく変更するものとなります。

メキシコにおける外国投資家が知るべきこと

本法案のいくつかの条項は、メキシコ憲法に反するものであり、可決されてもメキシコの裁判所で争われる可能性があります。また、本法案の内容は、40を超える二国間投資協定、自由貿易協定、投資条項を含む国際条約によってメキシコから外国投資家へ与えられた権利を毀損する可能性があります。よって、炭化水素法の改正に対処する法的措置として、メキシコの石油ガス産業において許可を受けた外国投資家は、電力改革について述べたのと同様に、国内及び国際的な2つのアプローチを考えることができます。


その他、2021年4月は以下の情報をAlert/Commentary としてお伝えしています。

独占禁止法・競争法

メキシコ独占禁止法当局、企業結合ガイドラインをアップデート
Mexico's Antitrust Authority Updates Merger Guidelines

米国最高裁判所、ほとんどの独占禁止法案件及び消費者保護案件において、連邦取引委員会が金銭的救済を受けることを禁止
Supreme Court Blocks FTC from Obtaining Monetary Remedies in Most Antitrust and Consumer Protection Cases

米連邦取引委員会、第五巡回控訴裁判所において、特許訴訟の和解におけるリバースペイメントに関する事案において勝訴
FTC Notches Win in Fifth Circuit Reverse Payment Patent Settlement Case

商事・不法行為訴訟

コロナウイルス関連請求に係る責任制限を定めるフロリダ州法の制定
New Florida Law Limits Liability for Defendants Facing COVID-19 Lawsuits

独禁法違反訴訟に係る集団の認定基準の明確化
Ninth Circuit Clarifies Class Certification Standards in Antitrust Appeal

サイバーセキュリティ・プライバシー・データ保護

欧州委員会専門家グループがコネクテッドカー・自動運転車についてのプライバシー提言を発表
European Commission Expert Group Issues Connected and Automated Vehicle Privacy Recommendations

フィナンシャル・マーケット

欧州議会による不良債権の証券化及び合成型証券化(シンセティック・セキュリタイゼーション)に関する新規則の採択
European Parliament Passes New Rules for NPE Securitisations and Synthetic Securitisations

非代替性トークン(NFTs):新たな資産分類に関する米国における主要な法的考慮要素
NFTs: Key U.S. Legal Considerations for an Emerging Asset Class

オーストラリア証券投資委員会による市場での不正行為に対する新たな免責方針の公表
ASIC Releases New Immunity Policy for Market Misconduct

政府規制

道なき道を行く: 老朽化した米国のインフラシステムに対するバイデン大統領の計画の分析
Roads Less Traveled: Breaking Down President Biden's Plan for America's Deteriorating Infrastructure System

議論の対象の米国通信品位法230条についての改正提案
Section 230 a Focus of Debate, Reform Proposals

米国商務省、マスマーケットの暗号品目及び公開されているソフトウェアに関する要件を緩和
Commerce Reduces Requirements Relating to Mass-Market Encryption Items and Publicly Available Software

米国税関・国境警備局、強制労働に基づき生産された製品に対する取締りを強化
U.S. Customs and Border Protection Steps Up Enforcement Activity Against Products Made With Forced or Indentured Labor

米国、ロシアへの新たな制裁
United States Imposes New Sanctions on Russia

ヘルスケア・ライフサイエンス

米国最高裁判所、虚偽請求取締法における虚偽の定義に関する控訴裁判所の解釈の相違の解消を行わず
Supreme Court Declines to Resolve Circuit Split on Falsity Under the FCA

知的財産

合衆国最高裁、10年に及びソフトウェア著作権論争を終結させる:Googleが勝利
U.S. Supreme Court Ends Decade-Long Software Copyright Battle: Google Wins

上訴審訴訟

Ford事件最高裁判決後の事物管轄:何が変わったのか
Personal Jurisdiction After the Supreme Court's Decision in Ford: What Has Changed?

労働・人事

イタリアの雇用主はCOVID-19ワクチン接種クリニックを職場で開催可能に
Italian Employers Now Allowed to Organize COVID-19 Vaccination Clinics in the Workplace

M&A

オーストラリア証券投資委員会の最新コーポレート・ファイナンス・アップデートのハイライト
Highlights from ASIC's Latest Corporate Finance Update

オーストラリアの規制当局、気候関連のリスク管理の重要性を強調
Australian Regulators Stress the Importance of Managing Climate-Related Risk

証券訴訟・証券法規制執行

事前の内部告発に関する「セーフ・ハーバー」規定に基づく米国証券取引委員会による個人の公益通報者に対する50万ドル超の報奨金の支給
SEC Awards More Than $500,000 to Individual Whistleblower Under "Safe Harbor" for Prior Internal Reporting

テクノロジー

フランス、自動運転車のための新ルールの導入を計画
France Plans on Adopting New Rules for Self-Driving Cars

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