Global Legal Update Vol. 71 | 2021年9月号
ジョーンズ・デイでは、世界各国に広がる40以上のオフィスが、現地の法令や判例等の最新情報をAlert/Commentary等としてお伝えしています。その中から日系企業に特に関心が高いと思われるものを以下でご紹介します。なお、英文部分の各リンクからAlert/Commentary等の原文をご覧頂けます。
サイバーセキュリティ・プライバシー・データ保護
中国の新しいデータセキュリティ法、外国当局へのあらゆるデータ域外移転を規制
China's New Data Security Law Restricts Cross-Border Transfers of All Data to Foreign Authorities
中国データセキュリティ法(「DSL」)が2021年9月1日に施行され、中国当局の事前承認なしに、外国の司法機関や法執行機関へのあらゆるデータの移転を含む、中国国外へのデータ移転が規制されます。しかし、DSLは、どのような行為が外国の司法機関や法執行機関へのデータの移転となるのか、例えば純粋に民事事件のために行うクロスボーダーの移転も含めるのか、また、どのように承認を得ることができるのか、などを規定していません。
DSLの詳細が具体化するまでは、中国で事業を行う多国籍企業にとって不確実な状況が続きます。この新法が曖昧なものであるにもかかわらず、中国当局は違反の取り締まりを行い、多大な罰金を科す可能性があることを示唆しています。
企業及び個人は、外国政府当局による調査への対応だけでなく、民事事件の証拠収集を目的とする外国企業からの、情報及び証拠の提出要請に応じて、クロスボーダーでデータ移転を行う場合の手続きを見直す必要があります。中国政府によって詳細な施行規則及びガイダンスが出されることが予想され、それにより企業も特定の域外データ移転に対し政府の承認を得る必要があるかを評価し、コンプライアンスのリスクを評価することができるようになるでしょう。
エネルギー
台湾洋上風力プロジェクト:法令及び規制の枠組みに関する投資家と金融機関のためのガイドのアップデート
Taiwan Offshore Wind Farm Projects: Updates to Guide Investors and Financiers through the Legal and Regulatory Framework
近年、台湾政府は強気の再生可能エネルギーの目標を設定し、特に洋上風力発電の開発に焦点を当てています。この刺激的な新しい市場は、国内の電力市場の参加者だけでなく海外投資家にとっても大きな機会を提供するものです。同時に、市場開発を効果的及び効率的に促進するための法令および規制の枠組みの必要性が浮き彫りとなっています。
このジョーンズ・デイのホワイトペーパーは、台湾における洋上風力プロジェクトに関する最新の法令及び規制の枠組みについて、過去の同様のホワイトペーパー(2018年2月)をアップデートするものです。完全を期すべく、一般的な調達プロセス、環境承認プロセス、系統割り当て、許認可、その他の風力発電開発者が考慮すべき重要なこと(外国人による所有制限、外国為替管理など)といったトピックスに関連する現行の情報についても、このホワイトペーパーでは繰り返し述べています。このホワイトペーパーの意図は、海外投資家が次々と展開していく台湾洋上風力発電プロジェクトへ参加しようとする際に、何を考慮すべきかについて現行のチェックリストを提供することにあります。
豪ニューサウスウェールズ州におけるガスの未来
The Future of Gas in NSW
豪ニューサウスウェールズ州政府が公表した「ガスの未来に関する声明」は、ニューサウスウェールズ州におけるガスの探査や生産の将来における確実性と信頼性を向上させるための州としてのガス業界に関する意向を示しています。州政府が提案した「バランスの取れたアプローチ」は、経済的発展と雇用を支えるために安定した手頃な価格のガス供給の必要性を考慮しているものですが、業界から反発を受けています。
以下の4つのアクションプランが声明には含まれています。
- 将来におけるガスの生産や探査についての確実性を向上すること
- 下流のユーザーがガスにアクセスして経済的利益を得られるようにすること
- 確実性を高めるために最も経済的な選択肢である場合にガスを穴埋め電力として使用すること
- ガス関連のインフラを有効活用すること
ガス探査が行える土地は77%も大幅に削減され、ナラブリ地域における探査免許の更新も限られたものとなります。これによって、探査が行われる土地を減らし、歴史的な土地使用にかかる問題の解決を行う意図があります。探査免許の削減によって、何年も開発されていない、いわゆる「ゾンビ免許」を撲滅させます。
ニューサウスウェールズ州で政府の支援を得られるプロジェクトは、ナラブリ・ガスプロジェクトとその延長のみとなります。政府は、供給の安定を確保するために、他州からの輸送や外国からの液体天然ガス(LNG)の輸入を計画しています。また、政府は、ポート・ケンブラやニューカッスルにおけるLNG輸入ターミナルの開発を支援していきます。
声明は、政府の国内の二酸化炭素排出削減に向けたコミットメントを示し、低排出に向けた取り組みに対する将来的な投資をもくろんでいるものです。その一方で、再生可能エネルギーへの転換は数十年かかるため、その期間において、ガスが重要な役割を果たすことも示しています。
この声明は、ガスの供給減少と高い価格に対するニューサウスウェールズ州の顧客の不満に答えたものです。業界は、新しい計画は顧客、雇用、企業に打撃を与えるものであるとして反発しています。この声明によって、ニューサウスウェールズ州の顧客は新しいガス供給源へのアクセスが限られ、企業や製造業者は他州や外国からの高い輸入ガスに頼らざるを得なくなるでしょう。
政府規制
フランス及びドイツの「ESGデューデリジェンス法」が事業に与える影響
The Impact of French and German ESG Due Diligence Laws on Business
欧州各国が、サプライチェーンにおけるESGリスクを規制するデューデリジェンス法を採用しています。また、欧州連合は、欧州及び世界で事業を行う幅広い企業に影響を与える可能性がある人権デューデリジェンス法の制定に向けた作業を行っています。
ドイツの立法府は、2021年6月11日及び25日にサプライチェーンにおける人権及び環境リスクを最小限に減らすことを大手企業に義務付ける、サプライチェーンにおけるデューデリジェンス法を可決しました。当該ドイツの法律は、2017年に制定され、増加する訴訟の対象となっているフランスの企業注意義務法に類似しています。
上記ドイツの新法及びフランスでの現在の訴訟は、サプライチェーンにおけるESGリスクを規制していくという新しいトレンドの先駆けに過ぎません。これらの法律は、世界中のサプライヤーに影響を与えます。今後制定される欧州連合の人権デューデリジェンス法の影響をより的確に評価するためには、フランス及びドイツの動向を詳しく見ることが必要です。
その他、2021年8月は以下の情報をAlert/Commentary としてお伝えしています。
独占禁止法・競争法
欧州委員会、垂直サプライチェーンにおける独占禁止ルール草案を発表
European Commission Issues Draft Antitrust Rules on Vertical Supply Chain Agreements
商事・不法行為訴訟
米連邦控訴裁判所が、虚偽請求取締法の適用対象を故意による請求に限定する旨を確認
Federal Court of Appeals Emphasizes Only Defendants Who Act "Knowingly" Can Be Liable Under the False Claims Act
フィナンシャル・マーケット
ドイツ当局によるグリーンウォッシング対策のための「持続可能な」投資ファンドに関するガイドラインの公表
German Regulator Combats Greenwashing by Proposing Guidelines on "Sustainable" Investment Funds
米国証券取引委員会によるNasdaq上場企業の取締役会におけるダイバーシティに関する新たな開示義務の承認
SEC Approves New Board Diversity Disclosure Requirements for Nasdaq-Listed Companies
米国司法省の拡大された文書提出命令に関する権限は無制限というわけではないこと(New York Law Journal)
The DOJ's Expanded Subpoena Powers Are Not Without Limits (New York Law Journal)
訴訟・紛争解決
オーストラリアの製造物責任法
Product Liability in Australia
政府規制
バイデン政権、「バイ・アメリカン」の要件の強化を求める規則案を発表
Biden Administration Issues Proposed Rule Seeking to Strengthen Buy American Requirements
知的財産
2021年中間レビュー:世界における営業秘密の重要な進展
2021 Mid-Year Review: Key Global Trade Secret Developments
商標と意匠特許が交差するとき:Columbia v. Seirus事件の波紋
When Trademarks and Design Patents Intersect: Making Waves in Columbia v. Seirus
上訴審訴訟
米連邦第二巡回裁判所が、破産法に基づく学費ローン債務の免責可能性に言及
Second Circuit Holds That Certain Private Student Loans May Be Dischargeable Under Section 523(a)(8)(A)(ii)
米連邦第二巡回裁判所が、礼譲に基づき多額の価格協定に係る判決を再度取消し
Second Circuit—Once Again—Overturns on Comity Grounds Multi-Million Dollar Price-Fixing Judgment
労働・人事
オハイオ州の新法、州の雇用差別に関する請求の法的要件を修正
New Ohio Law Modifies the Legal Requirements for State Employment Discrimination Claims
証券訴訟・証券法規制執行
米国証券取引委員会の委員長による暗号資産及び分散型金融(DeFi)に対する法執行及び規制上の審査の強化の示唆
SEC Chairman Signals Intensified Enforcement and Regulatory Scrutiny of Crypto and DeFi
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