インサイト

Jones Day One Firm Worldwide

Global Legal Update Vol. 68 | 2021年6月号

ジョーンズ・デイでは、世界各国に広がる40以上のオフィスが、現地の法令や判例等の最新情報をAlert/Commentary等としてお伝えしています。その中から日系企業に特に関心が高いと思われるものを以下でご紹介します。なお、英文部分の各リンクからAlert/Commentary等の原文をご覧頂けます。

独占禁止法・競争法

ドイツ、外資規制の追加変更
Additional Changes in German Foreign Direct Investment Control

2021年1月下旬に対外経済法施行令の第17次改正案が公表されました。採択された第17次改正は概ね当初の草案に沿ったものとなりましたが、ドイツにおける対象会社に関する取引を想定している企業が留意すべき、ドイツの外資規制に関するいくつかの変更点があります。

新規則は、政府に職権調査を開始する権利を与えたり、あるいは、通知義務につながるような閾値を超える追加株式の取得(「トリガーイベント」)が、新たなトリガーイベントにつながる可能性のあることを明示しています。つまり、外国の買主が、2018年にクリアランスを取得後にドイツの対象会社の株式の50%を取得し、今残りの50%を取得しようとする場合、2回目の取引は新たなトリガーイベントとなります。既に保有している75%の株式をさらに増加させる株式の取得だけの場合は、トリガーイベントとはみなされません。

また、第17次改正は、ドイツの外資規制に「支配の取得」という概念を導入しています。ドイツの対象会社の株式取得に付随して取締役の選任権、重要な事業上の決定についての拒否権、ドイツの安全保障と公の秩序に関連する情報へのアクセスを付与する契約は、「支配の取得」とみなされ、結果としてトリガーイベントとなる可能性があります。

新規則は、2021年5月1日以降に署名された取引に適用されます。

欧州委員会、単一市場を歪める外国の補助金に対抗するための規則案を公表
European Commission Publishes Proposal to Counter Foreign Subsidies Distorting the Single Market

2021年5月5日に発表された規則案における新制度の下で、欧州委員会は、EUの単一市場における外国政府の補助金による歪みに対抗すべく、新たに広範な権限を得ることになります。この提案においては、新たに三つの措置が導入されます。

  • 企業結合の届出の義務化:外国政府の補助金によって促進された企業結合において、買収者は、以下の場合に欧州委員会に事前に届出をすることが必要となります。
  • 買収されるEUの対象企業又は企業結合のEUの当事者の少なくとも1社のEUにおける売上高が5億ユーロ以上であること、かつ
  • 外国政府の補助金が5,000万ユーロ以上であること。
  • 公共調達: 公共調達手続において、入札者は、以下の場合に発注機関に事前通知を行い、受領した外国政府の補助金を開示することが必要となります。
  • 調達契約の見積額が2億5千万ユーロ以上であること、 かつ
  • 通知前の3年間に外国政府の補助金を受けていること。
  • 外国政府の補助金の職権審査: 欧州委員会が、上記2つの手段の閾値を満たさない企業結合や公共調達の手続を含むあらゆる市場状況を調査することを可能とする、外国政府の補助金を審査するための一般的な手段が提案されています。欧州委員会は、当該調査を自発的に開始することができ、アドホックな通知を要求する権限を持つことになります。

欧州委員会は、暫定措置の発動、情報提供の要請、(EU域内および会社の同意を得てEU域外での)会社の検査の実施、会社の非協力に対する措置、罰金及び定期的な違約金の支払の賦課を行う権限を有することになります。

本規則案では、欧州委員会が独占的な権限を持ち、EU加盟国当局の役割はほとんどありません。

本規則案が法令となるためには、今後、欧州議会及びEU加盟国にて検討及び採択される必要があります。

サイバーセキュリティ・プライバシー・データ保護

中国、データ規制体制構築への最終段階
China Takes Major Step Towards Finalizing National Data Regulation Regime

中国の全国人民代表大会常務委員会は、中国で事業を行う企業又は中国企業や個人と取引を行う企業によるデータの収集、処理、移転の方法について、大きな影響を与える2つの法律の第2草案を発表しました。その2つの法律とは、「重要なデータ」の処理に関するデータセキュリティ法と、個人情報の処理に関する個人情報保護法(「PIPL」)です。

データセキュリティ法案の主な修正点は、データの階層分類の導入と、「重要なデータ」の国外移転、特に外国の法執行機関や司法機関へのデータ移転に対する、更なる規制を含みます。この規制は、関係会社間のデータ移転にも影響を与える可能性があります。また、新しい草案はデータセキュリティ法違反に対する罰金も増額しています。

PIPL法案の主な修正点は、立案者が前回のパブリックコメントの中での国際社会の意見を聞き、特に欧州連合の一般データ保護規則(「GDPR」)の原理に近づけたことが見受けられます。例えば、中国サイバーセキュリティ管理部発行のモデル契約に基づき国外へのデータ移転を保護する標準条項の使用を検討したり、また、限られた個人情報の処理は同意なく行えることを明確にしています。しかし、そのような処理の根拠はGDPRよりも限定されています。特に、GDPRで広く柔軟に使用される「正当な利益」の根拠に相当するものは、PIPLにはありません。GDPRと同様に、PIPLの重大違反には多額の罰金が科せられます。

2017年サイバーセキュリティ法とともに、新しい法案は、中国のデータ管理及びサイバーセキュリティ法体制の3つの柱となります。サイバーセキュリティ法と同様に、新しい法案は幅広く、曖昧で、複雑であり、規制当局は執行において多大な裁量判断が可能となります。

両法案は2021年5月28日までパブリックコメントを募っています。全国人民代表大会は両法案を2021年末までには成立させると考えられるため、企業は、両法令の分析や、他の中国データ規制の執行傾向を調査するなど、準備をしておくことが大切です。


その他、2021年5月は以下の情報をAlert/Commentary としてお伝えしています。

独占禁止法・競争法

オーストラリア、競争法改正後初の「市場支配力の濫用」に関する和解
Australia Obtains First "Misuse of Market Power" Settlement Under Amended Competition Law

商事・不法行為訴訟

米第一巡回裁判所がMorrison判決に基づく国内取引基準の適用外の主張を退ける
First Circuit Rejects "Predominantly Foreign" Exception to Morrison’s "Domestic Transactions" Test

サイバーセキュリティ・プライバシー・データ保護

米国大統領令が消費者製品へのサイバーセキュリティ表示の管理体制構築に着手
Executive Order Launches Cybersecurity Labeling Regime for Consumer Products

欧州の銀行とのクラウドサービス契約に要求されるモデル条項
Model Terms Demanded for Cloud Service Agreements with European Banks

エネルギー

バイデン大統領のインフラ計画によるクリーンエネルギーの取引活発化
Biden Infrastructure Plans Could Spur Clean Energy Deals

米国連邦エネルギー規制委員会、天然ガスパイプライン許可見直しにおいて、温室効果ガス排出について考慮することを発表
FERC Announces Greenhouse Gas Emissions Will Be Considered in Review of Natural Gas Pipeline Certificates

メキシコ電力改革:気候変動政策の後退か
Mexican Electric Industry Reform: A Setback to Climate Change Policies?

気候変動に関するレポート(2021 年第 2 四半期版)
The Climate Report | Second Quarter 2021

フィナンシャル・マーケット

他業種からの多様な送金業務への参入を容易にする日本の資金決済法の改正
Japan's Amended Payment Services Act Could Prompt More Nonbank Entries Into Traditional Banking Services

気候関連金融リスクの分析及び軽減を政府機関に指示する米国大統領令
White House Instructs Agencies to Analyze and Mitigate "Climate-Related Financial Risk"

気候関連金融リスクに関するバイデン大統領の大統領令:金融機関にとって次に待ち受けていることとは?
Biden's Executive Order on Climate-Related Financial Risk: What's Next for Financial Institutions?

ニュージーランド政府による気候変動に関する開示を義務付ける世界初の法案の提出
New Zealand Government Introduces World-First Climate-Reporting Disclosure Laws

訴訟・紛争解決

西オーストラリア最高裁が仲裁判断に対する不公正手続の主張を退ける
"Last Refuge of the Desperate"—Western Australia Supreme Court Rebuts Procedural Fairness Challenge to Arbitrator's Award

政府規制

サッカー欧州スーパーリーグ:政府の反発の恐れが勝者と敗者を生み出した
European Super League: Threatened Government Backlash Created Winners and Losers

ドイツの連邦憲法裁判所、気候保護法は一部違憲と判断
German Constitutional Court: Climate Change Act is Partially Unconstitutional

パンデミック後の社会における金融市場参加者の訴訟・規制上の留意点とリスク
Litigation and Regulatory Considerations and Risks for Financial Market Participants in a Post-Pandemic Society

欧州委員会の最新情報:今後のREACH規則の改正とPFAS規制について
European Commission Update: The Future REACH Revision and PFAS Restriction

米国の特定の制裁措置に従うことの禁止-欧州連合司法裁判所のホーガン法務官がEUのブロッキング規則の難題に取り組む
Prohibiting Compliance With Certain U.S. Sanctions—Advocate-General Grapples With EU Blocking Statute Catch-22

調査・企業犯罪

米国税関・国境税務局、強制労働により製造されたことが確認された輸入製品の船積みを差止
U.S. Customs and Border Protection Seizes Two Shipments of Imported Products Found to Be Made With Forced Labor

上訴審訴訟

米連邦最高裁による租税課徴金は執行前不服申立てを妨げない旨の判断
Supreme Court Rules Tax Penalty Does Not Bar Pre-Enforcement Regulatory Challenge

プライベート・エクイティ

オランダのリミテッド・パートナーシップは、ルクセンブルグやアイルランドでのファンド・ストラクチャリングに代わる魅力的な選択肢
Dutch Limited Partnerships Attractive Alternative to Luxembourg and Irish Fund Structuring

不動産

バイデン大統領によるインフラストラクチャー・イニシアチブの根幹をなす税額控除制度
Tax Credit Programs Lay the Foundation for Biden Infrastructure Initiative

証券訴訟・証券法規制執行

SPAC(特別買収目的会社)への法執行の強化を示唆する米国証券取引委員会の姿勢
SEC Threatens to Slap SPACs

税務

暗号資産課税アップデート:新たなIRSガイドライン及び米国税率引上げ提案の影響
Cryptocurrency Tax Update: Impact of New IRS Guidance and Proposed U.S. Tax Rate Increase

テクノロジー

自動運転車:米国における法律上及び規制上の進展
Autonomous Vehicles: Legal and Regulatory Developments in the United States

ジョーンズ・デイの出版物は、特定の事実関係又は状況に関して法的助言を提供するものではありません。本書に記載された内容は、一般的な情報の提供のみを目的とするものであり、ジョーンズ・デイの事前の書面による承諾を得た場合を除き、他の出版物又は法的手続きにおいて引用し又は参照することはできません。出版物の転載許可は、www.jonesday.comの“Contact Us”(お問い合わせ)フォームをご利用ください。本書の配信、および受領により弁護士と依頼人の関係が成立するものではありません。本書に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、当事務所の見解を反映したものではありません。