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ジョーンズ・デイ・コメンタリー:フランスにおける腐敗行為防止に関するエンフォースメントの新たな一歩~フランス版訴追延期合意が初めて利用された事案と企業が認識しておくべき事項

2016年12月に成立したサパンII法(Sapin II Law)に基づき、腐敗事案の処理方法として、フランス版訴追延期合意(Deferred Prosecution Agreement)ともいえる和解制度(convention judiciaire d'intérêt public)が導入されました。

この制度は、一定額の罰金の支払い(過去3年間の平均年間売上の30%を上限とする)、フランス腐敗行為防止規制当局(Agence Française Anticorruption)による監督の下でのコンプライアンス・プログラム又は矯正プログラムの遵守、被害者への補償などを充足することを条件として、フランスの検察当局と調査対象となった法人が、腐敗行為事案等について刑事訴追の延期を合意するものです。この合意により、当該企業は刑の宣告を回避することができます。また、この制度は、企業に対してのみ適用され、腐敗行為などの一定の事案にのみ適用されます。

本コメンタリー作成時点では、3件の事案について、この訴追延期合意が利用されています。1件目は、スイスのプライベートバンクのマネーロンダリングに関する事案であり、2017年10月30日に合意が成立しています。他の2件は同一の公務員に対し、別の企業が関与した贈賄事案であり、2018年2月14日及び同月15日にそれぞれ合意が成立しています。

これらの事案は、個々の事案においてこの制度の利用が適切な解決といえるかどうか、またこの制度が適切だとして、どのような条件を要求すべきかを決定する上で考慮すべき要素を一定の範囲で示すものといえます。すなわち、当局の調査に協力した程度、腐敗行為の発生防止、原因究明、再発防止などのためにとられた措置は、調査対象の法人等に有利な要素として捉えられているようです。一方で、例えば、違反が長期に及ぶこと、公務員が関与したことなどは、調査対象の法人等に不利な要素と捉えられているようです。

なお、フランスにおいて上記訴追延期合意が成立したことが、同一行為について他国の当局が訴追を行うことを禁ずるのか否かという点は重要な問題として残されており、今後の動向を注視する必要があります。

本コメンタリーは、フランスで事業を行う日本企業にとっても有用な情報ですので紹介します。詳細は、Jones Day Commentary “France Takes Next Step in Anti-Corruption Enforcement: First “French DPAs” and What Companies Should Know”(オリジナル(英語)版)をご参照ください。

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