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ジョーンズ・デイ・コメンタリー:併合された仲裁手続に参加した一当事者が仲裁合意をしていない他の仲裁参加当事者に対して訴訟提起することを認めた合衆国連邦第6巡回区控訴裁判所の判断

2014年8月28日、合衆国連邦第6巡回区控訴裁判所は、併合された仲裁手続に参加した当事者のうちの一当事者が、仲裁合意をしていない他の当該仲裁参加当事者に対し、仲裁におけるのと同じ争点について訴訟で争うことを認める判断をしました。

これは、ある大学の心血管センター病院の建設に関連する事件であり、事案は次のようなものです。すなわち、大学は、病院のデザインに関して建築事務所であるShepley, Bulfinch, Richardson & Abbott, Inc. (“SBRA”)と契約を締結し(契約①)、SBRAは病院のあるシステムのため、デザインコンサルタントであるSmith Seckman Reid, Inc. (“SSR”)と契約を締結しました(契約②)。これとは別に、大学はBarton Malow Company (“Barton Malow”)をコンストラクションマネージャーとする契約を締結し(契約③)、Barton Malowは本件の原告であるW. J. O’Neil Company (“O’Neil)と下請負契約を締結しました(契約④)。契約①ないし④にはそれぞれ詳細な仲裁条項と損害賠償に係る条項が記載されていました。本件は、かかる状況において、O’Neilが遅延に基づく損害賠償を求めて契約④の仲裁条項に基きBarton Malowに対する仲裁を申し立て、これを契機に順次当該請求の填補を求めて、Barton Malowが契約③の仲裁条項に基づいて大学に対して仲裁を申し立て、大学が契約①の仲裁条項に基づいてSBRAに対して仲裁を申し立て、SBRAが契約②の仲裁条項に基づいてSSRに対して仲裁を申し立て、これらが併合審理されて仲裁判断が出された後に、O’NeilがSBRAとSSRに対し同じく遅延に基づく損害賠償を求める裁判を連邦地方裁判所に提起したという事件です。なお、O’Neilは、SBRAとSSRに対して仲裁において請求をしておらず、また、これらとの間で仲裁合意もしていませんでした。

連邦地方裁判所は、本件の争点についてres judicata(日本の民事訴訟法における既判力による制限に相当)を適用してO’Neilの請求を却下しました。これに対し、第6巡回区控訴裁判所は、O’NeilのSBRA及びSSRに対する請求はそれらの当事者間で別途の仲裁合意がない以上仲裁において解決し得ず、裁判で争うほかないから、本件でres judicataは適用されないとの判断を示しました。

この判決は、仲裁合意条項としてどのような定め方をするべきであるのかについて、新たな問題を提起するものといえます。例えば建設プロジェクトの様に、多数の当事者が存在することから、それら当事者の間で複数の請求が錯綜して生じる可能性が想定されるのであれば、紛争解決を一回的に行うことができるようするためには、仲裁合意条項に更なる工夫が必要であることを示しています。日本企業の中には国内あるいは海外において多数当事者が参画する複雑なプロジェクトに参加する企業も多いものと思われますことから、契約締結に際して仲裁合意を含む紛争解決条項の定め方に改めて留意をしていただきたいという趣旨でこの判決を紹介するものです。

詳細は、Jones Day Commentary “Arbitration for One is Not Arbitration for All: Sixth Circuit Allows Lawsuit Against Indirect Parties Following Consolidated Arbitration” (オリジナル(英語)版)をご参照ください。