ジョーンズ・デイ・アラート:アマリン とFDAによる適応外プロモーションに関する注目すべき和解
事案の背景
FDAは、重篤な(>500mg/dL)高中性脂肪血症の成人患者の中性脂肪レベルを下げる用法でVascepa(エチルイコサペント酸)カプセルを承認しました。当初の承認は、FDAとの間の特別プロトコル査定(「SPA」)の合意に基づき行われた、「非常に高い」中性脂肪を持つ患者に対する単一の第3相臨床試験に基づき与えられました。SPAとは、臨床試験がプロトコルに従い行われ、合意した目的を達成した場合には、当該臨床試験が医薬品の申請に対する承認をサポートすることとなる旨の、FDAとの合意をいいます。次いで、アマリンは、単一の第3相臨床試験で「持続的に高い」中性脂肪(>200かつ<500mg/dL)を持つスタチン治療中の患者の中性脂肪レベルに対するVascepaの効果を評価するSPAを作成し、FDAと合意しました。アマリンは、また、この患者に対し、心血管転帰の試験を実施することも合意しました。
2013年2月、アマリンは、FDAに対し、持続的に高い中性脂肪を持つ患者に対しVascepaを使用することの承認を求める補完的申請を提出しました。当該申請には、SPAに従い行われた研究から得られたデータが詳述されており、これらは、主要評価項目、重要な副次的評価項目、心血管転帰の研究に関係する義務を満たしていました。多くの場合、SPAを遵守した場合には承認がなされるものですが、本件は異なりました。FDAは、根底にある科学に関し異なった考えを有しているようでした。具体的にいうと、FDAは、当該データは持続的に高い中性脂肪を持つ患者に対し医薬品を使うことを十分にサポートできているとは判断せず、極めてまれなことですが、SPAを撤回しました。完全回答書簡(コンプリート・レスポンス・レター)において、当局は、二次的用法による使用を承認するためには、追加のデータが必要であると述べました。また、アマリンに対し、Vascepaの未承認用法についてのプロモーション活動を行うことは、連邦食品・医薬品・化粧品法に基づく不当表示を構成することになると警告しました。
上記書簡を受領して10日後、アマリンはFDAに対し提訴しました。アマリンは、憲法修正第1条は、Vascepaが「持続的に高い」中性脂肪の治療に使用しうることを示すデータを医師やその他の医療関係者に対し伝える権利を保障していると主張しました。アマリンは、訴状において、誠実かつ誤解を生まない適応外使用へのプロモーションについてFDAが不当表示として起訴すると脅すことは、憲法上保障されている言論の自由に対し、容認できない委縮効果を有するとしました。アマリンは、FDAが上記主張を継続することを防止するため、仮差止命令を申し立てました。
2015年8月7日決定
アマリンによる仮差止命令の申し立てを認めるにあたり、Engelmayer裁判官は、多くの部分を、米国対カロニア事件における第2巡回区上訴裁判所決定に依拠しました。カロニア決定は、憲法修正第1条は、誠実かつ誤解を生まない適応外使用のための医薬品のプロモーションについて、政府が個人を刑事告訴することを禁じていると判断していました。アマリンの事件では、政府は、基本的に、陪審員のために作成された不適切な指示やその他の声明を重視し、カロニア決定の射程をその事案の特有の事実と決定に至る経緯の範囲に限定することを追求しました。しかし、Engelmayer裁判官は、カロニア決定を、誠実かつ誤解を生まない適応外プロモーションを不当表示として起訴することはいかなる場合であっても許されないとしたものと、広く解釈しました。なぜなら、第2巡回区裁判所は、政府は当該言論を制限することにつき十分な正当化根拠を有していないとみていたからです。
Engelmayer裁判官は、アマリンが提示した一部の情報は、実際に誠実かつ誤解を生まないものと判断しました。他の一部の情報については、表現を誠実かつ誤解を生まないものとするための修正案を提示しました。他方、Engelmayer裁判官は、自らの決定が彼の面前にある情報にのみ基づくものであることを強調し、「今日では、公平であり、偏りのない表現であっても、新しい研究がなされ、新しいデータが得られることで、将来、不完全あるいは誤解を生むものになるかもしれない。」と述べました。
Engelmayer裁判官の決定は、仮差止命令に対する申し立てへの判断であり、最終的な解決をもたらすものではありませんでした。加えて、FDAは、第2巡回裁判所に上訴することができました。しかし、アマリンとFDAは、命令の直後に、和解の可能性について交渉していることを公表しました。
2016年3月8日和解
和解―Engelmayer裁判官がすでに承認している条項―において、政府は、「アマリンがVascepaの誠実かつ誤解を生まないプロモーション活動を行うことができ、また、カロニア決定の下、当該活動は不当表示に基づく起訴の根拠とはならないとの裁判所の決定に拘束されることに合意しました」。加えて、政府は2015年8月の決定により修正されたアマリンが提示した表現は誠実かつ誤解を生まないものであることも合意しました。
この和解はまた、アマリンが適応外プロモーションの情報提供に対する事前承認を求める新しい手続きを明記しました。一般的に利用可能なプロモーション資料のFDAによる審査手続きに加え、アマリンは、FDAに対し、Vascepaの適応外使用に関し年間2回まで情報を提出できることになりました。これはアマリンに、特定の情報提供が誤解を与えるものであるとみなされるリスクを減少させるものです(おそらく、この手続きは、例えば、情報提供の可否に関する議論の可能性が低く信頼できる、ピアレビュージャーナルで公表される研究結果の単なる頒布を超えた情報提供について使用されると考えられます。)。情報の提案を受領した後、FDAは、懸念事項に対応するために60日間を有します。同意できない事項を両当事者間で解決できない場合には、何れの当事者も、Engelmayer裁判官に対して紛争を解決することを求めることができます。この特別な手続きは、2020年まで適用されます。
和解の重要性
アマリンの和解は、少なくとも2つの点で重要なものといえます。第1は、FDAが適応外プロモーションに対し緩やかな態度をとることを示している可能性があるという点です。この和解において、当局は、Engelmayer裁判官の決定に対し上訴する権利を放棄しました。さらに言えば、この和解は、Engelmayer裁判官により承認された言論活動だけでなく、将来の、誠実かつ誤解を生まないVascepaの適応外プロモーションをも認めるものです。この和解は、カロニア決定の広い解釈を実質的に支持するものであり、このことについて政府が再度反論することを困難ならしめる可能性があるものといえます。
この和解では、企業は注意深く進むべきであると述べられています。この和解は、アマリンのみとの合意にすぎません。また、この和解では、誠実かつ誤解を生まない情報提供は「カロニア決定の下においては」不当表示に基づく起訴の根拠とはなり得ないと明確に述べられており、この点は、政府が第2巡回裁判所以外(すなわち、カロニア決定が拘束力を有しない法域)において異なった結論を争う余地を残す目的であると考えられます。それでもなお、この和解は、米国全土において誠実かつ誤解を生まない適応外プロモーションを行おうとする企業にとって有益であるといえます。
第2は、この和解が、適応外使用について提示された情報提供が許容されるかに関するアマリンとFDAとの間の紛争が裁判所により判断されるとした点です。この種の継続的な裁判所による監督は珍しいものです。他の裁判官がこの役割に同様の態度で臨むかは、今後観察していく必要があります。
この和解は(憲法修正第1条と同様に)、誠実かつ誤解を生まない情報提供のみを保護するものです。この和解に記載されているように、「アマリンは、今後、Vascepaの適応外使用についての医師への情報提供が誠実かつ誤解を生まないことを確認し続ける責任を負うこととなります」。新しい研究、新しいデータが、古く、かつて適切であった情報提供を誤解を与えるものと変え得ることに鑑みると、情報提供が誠実かつ誤解を生まないことを確認し続けるというアマリンの義務は、軽んじられるべきものではありません。
それでもなお、アマリンの和解は、誠実かつ誤解を生まない適応外プロモーションに対する憲法修正第一条による防御に関する重要な一歩であると考えます。